特別対談「一億総AI人材社会へ」

日本経済新聞(4月26日)掲載記事広告より

 日本ディープラーニング協会(JDLA)はディープラーニング(DL=深層学習)を中心とする技術による日本の産業力向上に向け、産業活用促進や人材育成、政策提言などを行っている。DX(デジタルトランスフォーメーション)時代における社会全体のリテラシー向上を目指し、「DL for DX」を掲げて、その活動や情報発信を加速させている。その一連の情報発信の取り組みの一つとして今回は、JDLA理事長である松尾豊東京大学大学院教授が、DX時代のコアリテラシーであるAIと、その中核となるDLについて、PwCコンサルティングの馬渕邦美マネージングディレクターと対談した。

経営層の意識改革が必要

松尾

 あらゆる事象がデータとして活用できるようになり、データドリブン(データによる業務推進)が可能となりました。実際データを活用して業務改善を進め、成果を上げる企業は着実に増えています。

 しかし、それをDXに生かせている日本企業は残念ながらまだ少ない。

馬渕

 過去30年間で世界の株価総額上位企業の顔ぶれは大きく変わり、現在米国のテックジャイアントが大半を占めています。

 経団連が出しているAI-ready化ガイドラインで、彼らは「データ×AI」を徹底的に活用する最高評価のレベル5なのに対し、日本企業は「データ×AI」の活用に未着手のレベル1あるいは一部の簡易業務で経験を積み始めたレベル2の段階にとどまっています。

 迅速な経営判断また経営判断による競争優位性の確立に、「データ×AI」の活用は前提条件であり、それが日米の大きな差となって表れている状況です。

松尾

 なぜ日本企業で「データ×AI」の活用が進んでいないのか。一番大きな問題は経営層の技術に対する理解不足、リテラシーの低さにあります。

 例えば、経営者は会計について分からないでは許されないのに、IT(情報技術)に関しては分からなくても通ってしまう雰囲気が日本企業にあります。

 技術の中身をきちんと理解して、それが事業にどう影響するかを考える、経営層の意識改革が必要です。

活用前提の青写真を描け

松尾

「データ×AI」の活用で重要なのは、技術進化のスピードが速いのでトライ&エラーを繰り返しながら、成功体験を積み重ねていくことです。

 経営者は失敗を恐れず挑戦することを促し、機会損失の最小化へと目的関数を切り替える必要があります。

馬渕

 同感です。まず時代に合わせた最終日標を設定し、それに向けたロードマップを描く「データ×AI」前提の青写真が描ければ、おのずと課題も見えてきます。

 できること、できないことの見える化が進み、業務の効率化やスピードアップが図れ、経営層の理解も得やすくなります。

松尾

 目標を設定する上で今後DLが重要な役割を担うでしょう。

 技術進化により自動で認識・識別できる対象領域が拡大し、デジタルデータとして活用できる幅が格段に広がった結果、DLで課題解決の選択肢を増やすことが可能となったからです。

 技術が課題と結びついて大きな価値を生み出す段階へと、DLの活用が急速に進んでいます。

馬渕

 オードリー・タン氏はAIを「Assistive Intelligence」と言い換えていました。まさにAIをてこにビジネスをエンパワーする発想が重要で、価値創出ツールとしてのDLに注目しています。

全社員に学びの機会を

松尾

 2021年2月に経団連が発表した「大学等が実施するリカレント教育に関するアンケート調査」によると、あらゆる年代層でデジタル・リテラシーの習得・向上が強く求められています。

 そこでJDLAでは、「データ×AI」活用の甚礎を学べる「AI For Everyone」を今回新設しました。

 経営層から現場担当者まで、それぞれの業務レベルに応じたAIリテラシーを学習・習得できる講座や資格を用意しています(下図参照)。

馬渕

 私が米国のテックジャイアントで働いていた時に驚いたことは、業務用パソコンにデフォルトでAIのAPIであったり、BIツールが人っていて、誰もが普通に使っていたことです。そうしたリテラシー醸成の環境がものすごく大事だと思います。

松尾

 確かに会社全体のリテラシーレベルを上げることは重要です。DX時代において、AIを使うことは自然であり、すべてのビジネスパーソンにとって共通のリテラシーとなっていくでしょう。

 ぜひJDLAの講座や資格を活用して、会社全体のリテラシーレベルを上げていってほしい。

馬渕

 今後は経営の中核にAIを置いて、戦略的なデータマネジメントを推進できた企業が勝ち残っていきます。それには目的達成に必要なAIリテラシーの強化が欠かせないと思います。

松尾

 私は攻めの視点を持てば、DX時代ほど可能性にあふれた時代はないと感じています。

 重要なことは、自分たちはどういう事業をやりたいのかを一度抽象化して、それを従来とは別の方法で実現できないか具体的に考えてみることです。固定観念や既成概念にとらわれない発想でトライすることが大切です。

 今後もイノベーションは続きます。社会全体のDX推進も欠かせません。チャンスは大いにあります。「データ×AI」を活用して、それを価値創出へとつなげていく挑戦に大いに期待しています。