行政はAI活用のフロンティア 宝探しのイメージで組織内DXや市民サービス向上で新価値創造に取り組む

[G検定 合格者インタビューvol.7]ディープラーニング × 豊田市役所のDX加速

AI勉強会の開催や人事へ受験料補助の働きかけも

――周りの職員さんの中で、G検定を取得されたのは井上さんが最初だったとのこと。現在は、他の職員の方へのG検定取得推進も始められているそうですね。

井上

 AI勉強会という形で、市役所内での組織内勉強会を開催しています。2021年8月までは業務外でしたが、現在では業務内で実施していいという許可も下りました。11月実施のG検定2021年#3に向けて、9・10月の2カ月間、1回1時間半ほどの勉強会を合計7回行いました。9人に参加してもらい、全員ではありませんが実際に受験し4人が合格しました。メンバーは私が所属する情報戦略課に限らず、部署横断で手挙げてくれた方が参加してくれています。

――G検定取得人数に関して、数値目標は立てていますか?

井上

 具体的な数値目標は作っていませんが、イメージとしては「職場の割と近くに、自分以外の誰かも取得している」程度の割合を目指していきたいなと思っています。何かアイデアがパッと浮かんだときに、「これってどうなんだろう」と話せる相手がいなければなかなか実現までたどり着けないと思うんです。G検定レベルの知識がある人同士の方が、話が通じやすいですからね。

――G検定の受験にあたり受験料補助などありますか

井上

 自己学習助成制度という、自己啓発に関する費用を半額補助するという人事制度が適用されます。2020年度までは適用外だったのですが、「資格費用も入れてほしい!」と人事に頼み込んでOKをもらい、2021年度から半額補助になりました。

――それも井上さんの訴えから始まったのですね。

井上

 学習へのハードルを少しずつ下げていかないと、意識改革は難しいなと思ったんです。時間がない、お金がない、教材がない……など、やらない理由はどんどん出てきてしまう。時間がないについては、業務内で勉強会を行えるようにしたり、お金がない(受験料が高い)のであれば、半額補助してくれるようにしたりと、少しずつハードル下げ一歩踏み出してもらうために各方面にお願いをしました。

――人事への受験料補助の提案や勉強会の開催など、うまく周囲を巻き込んで取り組まれています。そのような土壌づくりが成功した秘訣はどこにあるのでしょうか?

井上

 「少しずつ実績を作る」ことが効いているかもしれません。AI勉強会が業務内と認められる前でも、15人ほど集まってくれていました。そこで全く人が集まらなければ、そもそも「業務内でやっていいよ」というOKも出なかったと思います。

 いきなり「G検定取った方がいいです」「業務内で勉強会やりましょう」「資格費用を補助してください」と提案しても、「そもそもどうなの?」と止められてしまったと思います。実績を少しずつ作って「これはやった方がいいね」と納得してもらえるように進めていきました。

 ちなみに、勉強会を行う以前の2020年9月から、「データサイ塩ス通信」という組織内新聞を制作していたのですが、それもじわじわ興味をひいていった要因のひとつかもしれないです。「データサイ塩ス通信」はPowerPointで資料を作り、PDFで庁内のeラーニング機能から自由に見ていい教材として月1回公開していました。

 いきなり「G検定があります!」と言っても「そもそもG検定って何?」と身構えてしまいますよね。データ活用やデータサイエンス、AIについて特集して徐々に皆さんの頭の中にインプットさせておいてからG検定を紹介する、という下地作りが効いていたのかもしれません。

井上さんが制作した「データサイ塩ス通信」。身近な話題からデータ分析を解説する特集や、G検定合格者への“ヒーローインタービュー”回も。

――受け入れられやすい下地作りもポイントだったのですね。その「データサイ塩ス通信」からAI勉強会の発足へとつながっていったのでしょうか?

井上

 「データサイ塩ス通信」をスタートして半年ほど経ち、閲覧者数も増加。豊田市の職員約3500人のうち、1割前後の300~500人ほどに見てもらっているという状態になり、下地作りはできてきたなと思っていました。ただ、興味を持ってもらっているところで止まってしまっているなと感じ、もう一歩先に踏み込んでもらうべく勉強会を開催しました。

――それほどまでAIやディープラーニング活用に対する土壌が広がったのは井上さんのファーストペンギンとしての役割が大きいと思いますが、周りの意識変化は感じていらっしゃいますか。

井上

 とても感じています。ただ、企画を中心に担う情報戦略課の職員だけが詳しくなっても問題解決にはつながらないと思っています。市民課や債権管理課などの窓口業務があり現場課題に近い職員ほど、知識をつけていろいろなアイデアを出してほしいなと思っています。

――自治体で行政職に携わる職員の方々が、G検定を取得する意義はどういう点にあると思われますか?

井上

 正直なところ、行政のやり方や組織体は世間からかなり取り残されていると感じています。10年前と比べると、銀行振込や電力会社の変更など、あらゆる手続きが今はほとんどインターネットで完結します。ただ唯一、まだ窓口に赴かなければならないのが行政の手続きです。

 「じゃあ次の10年後もそのままなのか」というと、それはさすがに世間も許さないですし、やっている側も「まだこんなことやらなきゃいけないの?」と思うはずです。世間の順番で言うと最後の方ですが、私たちも変わらないといけないときが来ている。

 その際にデータサイエンスやディープラーニング、AIは絶対に鍵となるテクノロジーなので、基礎的なことは全員知っておかなければ真の組織変革はできないのではないかと思っています。